金利と経済(翁邦雄)
1年前の本ですが、翁邦雄先生の「金利と経済」を読みました。
各国の中央銀行の動向をわかりやすくまとめて解説してくれる先生は貴重です。
毎回楽しみにしてます。
さて、内容を簡単にまとめておきます(雑記)。
第2章 バブルとデフレ、どちらを取るか
自然利子率
グリーンスパンの回顧録
- 1990's~200's前半のGreat Moderation(成長率・インフレ率安定)は中央銀行のおかげではなく、趨勢的な長期金利低下の影響である。
- グリーンスパンは金利低下圧力・デフレ圧力におびえ、テイラー・ルールよりも緩和的な政策をとっていた。
Rachel and Smith(2015)(Bank of England)"Secular drivers of the global interest rate"
- 先進国の実質長期金利は、1990年代以降一貫して低下している(最近の水準はマイナス)。
第3章 長期停滞が懸念される理由
Summersの長期停滞仮説(Secular Stagnation)(2013.11 @ IMF Conference)
- 金融危機に際して、大規模な政府支出をしたにも関わらずインフレは起きない。
- 米国経済は恒常的な需要不足ではないか?
- 様々な推計で、自然利子率はマイナスとなっている。
Rachel and Smith(2015)
8つの要因で自然利子率を説明 ⇒ 長期停滞仮説を裏付け
- 人口要因(貯蓄増)
- 不平等の拡大(消費性向の低下)
- グローバルな貯蓄余剰
- 資本財の相対価格
- 公共部門の投資
- 信用スプレッド
- 成長要因
- その他(景気等)
低い自然利子率が恒常的に続くことの影響
- 経済へのnegative shockに対して、金融政策がzero-lower-boundに頻繁に直面
- 非伝統的政策を頻繁に利用
- 非伝統政策は効果に疑問があり、中央銀行のBS拡大懸念も
- 財政政策の役割が拡大
企業や金融機関が利回りを追求
第4章 自然利子率がマイナスの場合の金融政策
自然利子率がマイナスの場合の金融政策
Krugmanによる提案@1998(予想インフレ率の引上げ)
- 日銀は"credibly promise to be irresponsible"をするべき(time-inconsistency problem)
- 日銀による「量的・質的金融緩和」の導入(見せ金・commitmentとしての量的緩和)
- Krugmanの提案は、長期停滞の下では成り立たない。(いつか回復する自然利子率を前提)
Krugman「日本再考」@2015.10
- 日本が抱えている課題は「不況からの回復」ではなく、「財政政策なしで独り歩きできる経済」
- 長期停滞仮説を念頭に置くと、金融政策が直面する課題はより困難
第5章 マイナス金利政策の登場
欧州におけるマイナス金利の導入(デンマーク(2012.7~))
マイナス金利の物理的限界
マイナス金利の功罪
- メリット
▷金利の低下・景気へのポジティブな影響・インフレ圧力・自国通貨の減価
- デメリット
▷銀行部門の収益低下
[短期的]導入時に1度は収益が高まる
[長期的]利ざやの低下、イールド・カーブのフラット化によるタームプレミアム低下
▷金融システムの安定性低下
収益低下による内部留保の低下・リスク・テイクの伸長
- メリット・デメリットの程度は各国により異なる
▷欧州では、景気好転による信用リスク低下で、銀行収益にはプラスと主張
第6章 日銀による「マイナス金利」追加の功罪(2016.1.29)
3段階の構造
- 基礎残高210兆円:+0.1%
- マクロ加算残高:±0%
- 政策残高:▲0.1%
国債市場に発生するバブル
- 日銀トレードの存在
◯銀行収益への大きな影響
第7章 イールドカーブ・コントロールの行方
日銀「総括的な検証」
長短金利操作付き量的・質的緩和
感想
うーん、わかりやすい。
この本の出版以降もマイナス金利は続いているけど、どれほどの効果があるんだろう。
マイナス金利導入のデメリットとして「過度なリスクテイクの追求」が言及されてるけど、これは実際に起きてる気がする。よく話す金融機関では、ガイドライン金利(基準金利)が形骸化しているってよく聞くし。
非伝統的金融政策はなんだか綱渡りですなあ。